2021年8月15日 為替相場の値動きを知る秘訣

 

 今年8月15日に、ニクソンショック50周年となります。1971年8月15日、ニクソン大統領(当時)は突然テレビ演説(YouTubeにあります)を行い、米ドルの金交換を停止すると発表しました。1ドル360円時代から強い円(=弱いドル)を歩み始めた誕生日です。その後円高(ドル安)は進み、2011年10月31日(オバマ大統領時)には75.32円の円最高値をつけました。2016年6月24日に98.95円を付けて以来今日まで5年間あまり100円割れは起こっていません。現在は110円前後となっています。さて、今後ドル円相場は100円割れが起こるのでしょうか、いや日本の将来を悲観した円安、すなわち120円方向になるでしょうか、これからも毎日目が離せません。

 筆者はニクソンショックの翌年(1972年)に外国為替の世界に足を踏み入れました。それから約49年、外国為替一筋で、ある時から「為替の歩く辞書」と言われ、今日にいたっています。この機会に、長年の経験から得た、為替相場の見通しで役に立った為替市場への考え方、クセ、アノマリー(理論でなく、経験的に観測できる市場の規則性)についていくつか取りあげてみます。

 

◆ 現在の立ち位置を知る「渋滞理論」

 市場を道路に見立てて、「渋滞の状況」に置き換えることで、「相場が動いている時、その理由は何か」、また「動かない時、なぜ動かないか、いつから動き出すか」を知るのに役立つ方法です。

 まず「工事渋滞」。これは前もって工事の予定が分かっている状態のことで、為替市場で言えば、重要会議があるとか、注目経済指標が発表されるような時です。この場合の対処方法は、通常は発表前にポジションを縮め、工事完了、すなわちそのイベントの結果を見て、市場に入り直すことです。

 次に「事故渋滞」。これはいきなり来ます。このとき大事なことは、まず事故に巻き込まれないことです。「まず生き残ることが大切。儲けは二の次」との言葉もあります。ドサクサにまぎれてうまいことをやろう、というのでなく、ポジションをできるだけ縮小することと心得よ、ということになります。

 そして、「自然渋滞」。これがもっともわかりにくい状態です。市場で言えば、小動きに終始し、理由がわからず、渋滞でイライラするときに「渋滞の先頭はどうなっているのだろう」と思うことに似ています。「相場を動かしている真の要因は何だろう」と考えます。経験的には、通貨当局の動向を察して行動を起こしている場合や、大手投資家が少しずつ買い集めている場合などがあります。このケースでは、流れが見えてきたら、少しずつでも、その方向に乗っていく方法を取ることになります。

 

◆ 二つ(狩猟民族と農耕民族)ある為替市場

 為替市場は「24/7(一日24時間、一週7日間)の世界」と言われるほど、休みなくシームレスに続いています。土日と言えどもそこで起こったニュースは月曜日の商いに結びつくので、常に目を配っていかなければならないことを、この言葉は意味しています。

   しかし一方で、「為替市場は二つある」との言葉もあります。それは、「農耕民族市場」と「狩猟民族市場」です。それぞれ相場へ向き合う態度や心構えが大きく違います。前者が、主に東京市場で、「逆張り。売られたら買い、買われたら売る」相場になる傾向が強いことに対し、後者は欧米市場で、「順張り。売られたら売り、買われたら買う」相場になることです。筆者は、日米の両マーケットで経験し、この違いに気づかず、痛い目に遭ったことがあります。おかげで相場の動きを肌で感じるようになりました。このことから、主の取引市場が欧州に移ったら、「さあ、これから、獲物を追いかける狩人たちが参加してくる!」「値動きの激しい新しい市場が始まる。」と、意識を変えました。そうすれば相場の動きの特徴がかなり分かってくると思います。この見方が、相場の動きに付いていく強力な知恵となります。

 

これからは、相場のクセについて二つ取り上げます

◆ 「2・8理論」

 相場の動きを細かく見ると、「2」と「8」が節目になっていることに気づきました(実務的にはその前後5銭が折り返し点になっていることを利用)。具体的に言えば、ドルが109円台から売られるとき、108.80円前後で一回止まりますが、108.75銭が割れると、108.20銭まで続落するという傾向があります。そこで一回止まりますが、108.15円を割ると107.80円が次の下値の目標となります。しかし割らなければ反転し、108.80円を目指して上昇する、という仕組み(値動き)です。これは行動ファイナンス的な分析にも通じます。

 

◆ エスカレーターアップとエレベーターダウン

 上がるときはゆっくりと、しかし下がるときは一気に激しく、という意味です。小さい川を集めてだんだん大きくなり、最後は滝となって落ちる様子を思い浮かべてください。「木は天まで届かない」という言葉もあります。バブルの破裂が懸念される場合は、その川がどこまで大きくなったか(=上昇相場がどのくらい長く続いているか)を意識すると、最悪を回避することができると思います。(腹八分目こそ身を守ります)

 

 

 最後に、相場の値動きを理解する面白い言葉・「ディーラーはスペイン人」を紹介します。

笠信太郎氏の著書「ものの見方」(河出書房文庫)に、

 イギリス人は、歩きながら考える

 フランス人は、考えた後で走り出す

 スペイン人は、走った後で考える     という文章があります。

「動き出したらまず流れに乗る。だれも付いてこなければ戻ればよい、あるいはすぐひっくり返す」=これがディーラー(市場で売買する人)の性格です。IT時代になっても変わらないと筆者は信じています。まさにスペイン人の考え方です。相場の動きを知る大切な言葉で、筆者の好きな言葉です。

 

 最後に、私の座右の銘を一つ。 “Once a Dealer, Always a Dealer”

 

一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)   小池 正一郎  CFP®

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献するこ

とを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 

 

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