2018年4月1日 教育資金一括贈与の光と影

 

 お子様をお持ちのご家庭にとっては、教育資金の負担というのは、頭が痛い問題です。そこで、平成25年に若い世代の家計を援助する、大型の贈与制度(「教育資金一括贈与」)が設けられました。
父母や祖父母から教育費の援助を受けられるならば、家計は大変助かります。今回は、この制度についての、メリットデメリットを考えてみましょう。

 

◆「そもそもこの贈与ってどう使う?」
 最初にこの贈与についてご紹介しましょう。父母や祖父母から30歳未満の子や孫の教育資金に充てるため、金融機関に口座を開きます。いくつかの条件がありますが、一括して贈与したときには、子や孫一人につき、1,500万円までは贈与税を課税しないとする制度です。非課税の対象となる教育資金とは、主なものには、入学金、授業料、施設設備費等の学校に直接支払われるものがありますが、学校以外の教育費も、一定のものが非課税の対象となります。上限は500万円となりますが、学習塾や習い事等の費用が含まれます。教育費として、非課税の恩恵を受けるために、教育目的に使用したことの領収書を金融機関に提出する必要があります。もし、教育目的以外に使用するのであれば、もちろん原則通りに贈与税が課税されます。


◆「制度の光の部分とは」
 一般社団法人信託協会によると、この制度の本年3月末の取扱いは、件数178,983件、残高1兆2,382億円、1件当たり692万円となっています。
 実に多くの国民が利用していることが分かります。
では、なぜこのように、この制度は短期間に多く利用されているのでしょうか。
それは、この制度が、資産家の相続税節税対策にも利用されているからです。例えば、孫の5人に、限度額一杯の1,500万円の贈与ができれば、相続財産から7,500万円を減らすことができます。また、贈与者が先に死亡したときに、贈与した金銭は、相続税が課税される財産の対象とはなりません。もし、贈与した人が亡くなってしまうと、死亡する前3年以内に行われた贈与は相続税課税財産に加算されて税金が計算されてしまうのですが、この一括贈与では関係ありません。


◆「贈与の影の部分とは」
 ところが、いい話ばかりではありません。
贈与を受けた子や孫が30歳までに贈与された全額を使い切れず、残った金額があった場合には、その残額に対して贈与があったものとみなされ、贈与税が課税されることになっています。
「我が家の教育費を援助して欲しい」という、子の懇願、あるいは孫可愛いさに、つい無理をして贈与を行った結果、その後、病気等でお金が必要となった時に手元にお金がなく、生活が困窮する事態になった、との悲話も聞かれます。孫や子供全員に同金額を贈与できるならもめることはないでしょうが、一部の子供や孫に隠れて贈与したために、後日、その贈与が発覚して、家族が争う事態になってしまったのでは、後悔してももう遅いのです。この制度を利用すると、通常贈与する金額も大きくなりますから、よく家族内で話し合って、隠さず、そして無理のない範囲にすべきです。30歳までに教育資金として使い切れないような贈与はすべきではないでしょう。

もともと、父母や祖父母は、子や孫に対しては扶養の義務があります。授業料や、入学金等を必要とされる時に、通常必要な金額を必要な時に贈与する場合には、非課税となっています。中学生の時に、大学4年分の授業料を先に渡すようなことは贈与税が課税されますが、大学生になった時、毎年その年度の授業料を渡すのであれば課税はありません。
 必ずしも、教育資金一括贈与制度に頼らなくてもいい訳です。
周囲がこの制度を利用しているから、我が家も教育費を一括贈与しなければ肩身が狭いという考えは不要といえるでしょう。もし、急ぎの相続対策として、利用を考えたいことでもない限り、必要とされる時に必要額を贈与して、その都度、感謝された方が良策といえるケースもあるのです。贈与する場合には、制度のメリットデメリットをじっくりと吟味して、自分に合う方法を利用しましょう。

 

 一般社団法人 かながわFP生活相談センター(KFSC)  浜 研二 CFP(R) 

KFSCは神奈川県民の皆様のライフプラン作りやより豊かな生活の実現に貢献することを目的に活動するベテランのファイナンシャル・プランナー集団です。

 この内容は2017年12月に相鉄不動産販売様のメルマガに掲載された内容を、同社のご了解を頂き掲載しています。

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